東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)99号 判決
二 原告は、本件商標と引用第一商標とは外観において類似する類似商標であるのに、審決はこの点において判断を誤つた違法がある旨を主張するので判断する。
1 本件商標は、前示当事者間に争いのないその構成によれば、いずれも全くの造語であつて既製語の観念と結びつくことがないと認められる「テネスコ」なる片仮名文字と、「TENESCO」なる欧文字とを二段に併記してなるものであるが、併記された右の両部分は、いずれも通常用いられる書体をもつて表示されており、ともに「テネスコ」と読めることが一見して明らかであり、その間に図形上の組合わせの特徴として印象付けられる如きものもなく、本件商標に接する看者に対しては、同一に称呼されるものを片仮名文字と欧文字とをもつて単に併記したものであると理解されるものであると認められる。したがつて、本件商標がその登録されたままの態様で使用される場合に限つてみても、本件商標に接する取引者、需要者においては、その外観を記憶し、想起する場合、本件商標の欧文字部分のみによつて記憶、想起を行い、時と所を異にして接すべき他の商標との異別の判断に供することが少なくないものと認められる。
してみれば、本件商標において、その欧文字部分は片仮名文字部分と独立して本件商標の外観上の要部ということができるものであり、本件商標と引用第一商標との類否を判断するに当たつては、本件商標の欧文字部分と引用商標との各外観を対比してその類否を判断することが可能である。
2 そこで、本件商標の欧文字部分と引用第一商標とを対比すると、前示当事者間に争いのない両商標の構成に、成立について争いのない乙第一号証の三を総合すれば、前者はセンチユリー・オールドスタイル風の字体をもつてやや字間にゆとりをもたせて「TENESCO」と七文字を配列しているのに対し、後者はゴシツク風の字体をもつてやや字間をつめて「TENNECO」の七文字を配列しているものであるが、右の字体の差異は、いずれも通常活字体として普通に用いられている字体間の置換にすぎず、また、文字間の間隔の差異も、普通の文字の配列における間隔のとり方の範囲内の差異にすぎず、それぞれの外観を記憶し想起する際には捨象される程度のものと認められる。したがつて、両者の間の差異として残るものは、配列された七文字中の語頭の「TEN」と語尾の「CO」に狭まれた「ES」と「NE」の差異だけであるところ、ここにおいてもともに「E」の文字が含まれ、全体として両者の外観を対比するときは、極めて類似した印象を刻するものというほかなく、特に時と所を異にして両者に接するときは、外観上識別することが困難であつて相紛れるおそれが強く、両者は外観上類似するものと認めるのが相当である。
3 したがつて、本件商標と引用第一商標とは外観において類似する商標であつて、前示当事者間に争いない事実によれば、その指定商品は同一であるから、本件商標は商標法第四条第一号第一一号の規定に違反して登録されたものというべく、審決は右の点につき判断を誤つた違法があるから、取消しを免れない。
三 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容する。
〔編註その一〕本件における当事者の主張は左のとおりである。
二 審決理由の要旨
本件商標及び引用第一ないし第三商標の各構成及び指定商品並びに登録出願及び設定登録がされた各日は、いずれも前項のとおりである。
そこで本件商標と引用各商標とを対比すると、先ず、本件商標が片仮名文字と欧文字とからなるものであるのに対し、引用第一商標は欧文字を書してなるものであり、引用第二商標は図形と欧文字との結合によつてなるものであり、引用第三商標は片仮名文字を書してなるものであるから、本件商標と引用各商標とは、外観上相紛れるおそれのある程度のものではない。次に称呼についてみると、本件商標からは「テネスコ」の称呼を生じ、引用各商標からはいずれも「テネコ」の称呼を生じるものと認められ、両者の相違は中間の「ス」の音の有無にあるが、前者が四音、後者が三音という短い音構成からなり、いずれも一音一音が明確に発音されるものであるから、「ス」の音の有無が全体としての称呼上に及ぼす影響は極めて大きく、これを一連に称呼するときは、聴感において著しく異なるものがあり、両者は称呼上類似するものではない。更に観念についてみると、本件商標及び引用各商標は、いずれも一定の意味合いを表現し得ないものと認められるから、両者は比較すべくもないものである。
したがつて、本件商標と引用各商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れることのない非類似の商標であるから、本件商標の登録を、商標法第四条第一項第一一号の規定に違反して登録されたものとして、同法第四六条第一項第一号の規定により無効とすることはできない。
三 審決の取消事由
審決は、本件商標と引用各商標とは非類似の商標であると判断したけれども、本件商標は、引用第一及び第二商標と外観において類似するものであつて、審決には、この点について判断を誤つた違法がある。すなわち、本件商標と引用第一及び第二商標とを対比するに当たつては、両者の欧文字部分を商標の要部として、該部分の構成に基づきその外観を比較対照すべきものであつて、該部分において両者は外観上識別することが困難な類似した商標ということができ、その指定商品も両者は同一であるから、本件商標は商標法第四条第一項第一一号に違反して登録されたものであり、その登録は無効とされるべきものである。
1 欧文字部分を比較すべきことについて
本件商標は、片仮名文字と欧文字とを二段に横書きしてなるところ、このような構成の商標にあつては、片仮名文字部分と欧文字部分とがそれぞれ独立して商標の要部となることは明らかである。しかも、本件商標は第一類商品を指定商品としており、これら商品に関する商標は、欧文字あるいは片仮名文字のみで使用されることが多く、本件商標の構成そのままに片仮名文字と欧文字を二段に併記して使用する例はさして多くないものである。現に被告においても、「EPL」の欧文字と「イーピーエル」の片仮名文字とを二段に横書きしてなる登録商標につき、カタログ中で「EPL」の欧文字部分のみを単独で使用し、また、「DONOREST」の欧文字と「ドノレスト」の片仮名文字とを二段に横書きしてなる登録商標につき、説明書中では、片仮名文字の「ドノレスト」と欧文字の「Donorest」とを別々に使用しているところである。してみると、本件商標についても、被告においてはその欧文字部分の「TENESCO」を単独で使用することは十分あり得るところであり、そのような態様で使用することも、商標審査基準に照らせば、本件商標と社会通念上同一のものの使用として評価されることも明らかであるから、本件商標を引用各商標と比較する場合には、本件商標の登録された全体の構成自体のほか、欧文字部分のみを分離した態様をも比較しなければならないものというべきである。
これに対し、引用第一商標は欧文字のみからなり、また、引用第二商標は欧文字とこれを囲む図形とからなつているが、このような構成の商標にあつては、その欧文字部分が要部であることは明らかである。
2 欧文字部分の類似性について
本件商標の欧文字部分は「TENESCO」というものであり、引用第一及び第二商標の欧文字部分は「TENNECO」というものであつて、ともにアルフアベツト七文字からなり、そのうち初めの三文字と終りの二文字は共通していて、相違する中間の二文字も「ES」と「NE」であるから、共通の文字「E」を除くと実際に相違する文字は「S」と「N」の一文字だけである。
そして、本件商標と引用第一及び第二商標とは、ともに造語商標であつて、これを一見して既成語の観念と結びつけることはできないから、本件商標の欧文字を一見したものが、時と所を異にして、引用第一及び第二商標、特に引用第一商標を見たときは、両者の相違は中間の「S」と「N」の一字にすぎず、書体も活字体の近似の態様であるため、外観上両者を識別することは極めて困難であり、両者は外観において類似する類似商標ということができる。被告は、両者の字体及び文字間の間隔の差異が存することを主張するが、比較的ありふれた特異性のない書体で登録された商標を、他のよく使われる書体で、文字間の間隔を多少変更して書いて使用しても、商標の同一性にはなんら変更がないことである。
3 なお、被告が本件商標と引用第一及び第二商標とは類似しないとして主張するところは、結局において、本件商標を正確に登録されたままの態様の商標として引用商標と比較した場合についてのみのものであつて、他にそれと同一性のある範囲での使用態様についてはなんら考慮していないものであり、被告の主張は一面的というほかない。登録商標の専用権は同一性の範囲に及ぶのであるから、その同一性の範囲で商標の類否が検討されるのは、むしろ当然のことというべきである。
四 よつて、審決は違法であるので、その取消しを求める。
(請求の原因に対する被告の認否及び反論)
一 請求の原因一・二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。本件商標と引用第一及び第二商標とは外観上類似するものではなく、これと同旨の審決の判断に誤りはない。
1 本件商標は、アンチツク体の片仮名文字「テネスコ」とセンチユリー・オールドスタイル風の欧文字「TENESCO」とを上下二段に横書き併記してなるものである。これに対し、引用第一商標は、ゴシツク体で「TENNECO」の欧文字を横書きしてなるものであり、引用第二商標は、特殊な輪部図形内にゴシツク体で「TENNECO」の欧文字を横書きしてなるものである。
以上のとおり各商標の構成を確定したところに基づいて、本件商標と引用第一商標との外観の類否をみると、本件商標は片仮名文字と欧文字の結合よりなるものであるのに対し、引用第一商標は欧文字のみであるという極めて顕著な差異を有するものであるほか、前者の欧文字の字体がセンチユリー・オールドスタイル風であるのに対し、後者の字体はゴシツク体であり、また、一字一字の間隔においても、前者はゆつたりしているのに対し、後者はつまつているものである。更に、欧文字の配列においても、前者の四字目と五字目が「ES」であるのに対し、後者のそれは「NE」であるから、このような差異が看者の視覚に及ぼす影響は大きく、両商標を時と所を異にして観察する場合においても、外観上彼此相紛れるおそれはないものである。
次に、本件商標と引用第二商標との外観上の類否についてみると、前者が片仮名文字と欧文字の結合よりなるものであるのに対し、後者は特殊な図形と欧文字の結合よりなるものであるから、この点のみにおいても極めて顕著な差異が存するものである。のみならず、両者の欧文字の字体及び文字の配列において、引用第一商標との対比におけると同様の差異が存するから、このような差異が看者の視覚に及ぼす影響は大きく、両商標を離隔観察する場合においても、外観上相紛れるおそれは全く存しないものである。
したがつて、本件商標と引用第一及び第二商標とは外観上非類似のものである。
2 原告は、片仮名文字と欧文字を二段書きしてなる商標における要部はそれぞれ片仮名文字部分と欧文字部分にあると主張するが、登録商標の外観は登録された商標そのものであつて、これを分断したものは、もはや登録商標の外観ということはできず、その一部としかいえないものであるから、本件商標の一部である欧文字部分のみを抽出して、引用第一商標及び引用第二商標の欧文字部分とその外観を対比することは到底許されるところでない。
原告の主張は、要するに、本件商標にあつては片仮名文字部分と欧文字部分とが分離して使用されるということを前提に、その一部である欧文字部分を抽出し、これを引用第一商標及び引用第二商標の欧文字部分と比較して外観が類似するとするものであるが、そのような使用方法は登録商標本来の使用方法でないばかりか、そのようにして商標相互間の外観を対比する判断基準は例をみないものである。商標の外観を比較する場合は、商標全体の構成態様を確定したうえで、その類否を比較すべきものであり、二段書きした商標の外観の一部である欧文字部分のみを抽出し、しかも、その書体を他のよく使われる書体に変更したうえ、更に文字間の間隔を変更したものは、登録商標の外観の一部にすぎないのみならず、その外観の一部を変更するものであるから、このような不確定な商標を念頭において外観の類否を判断するが如きことは到底許されないものであつて、原告の外観対比に関する主張は、根底から失当というほかない。
3 なお、原告指摘の二個の商標について被告が原告主張のような使用をしていることは認めるが、この使用商標の外観とその登録商標の外観とが類似しているものと即断することはできないところであるし、また、右のように使用されている例があるからといつて、本件商標が必ず分離されて、片仮名文字あるいは欧文字のみで使用されるとも言えない。更に、本件商標の指定商品である薬剤等に使用される商標で、それが二段書きで登録されている場合、必ず片仮名文字と欧文字とが分離して使用されるというものでもない。本件商標についても、それが分離して使用されているとの証拠は提出されていない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がなく、棄却さるべきものである。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
(別紙)
本件商標
<省略>
引用第一商標
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引用第二商標
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引用第三商標
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